非上場株式の評価方法が変わる? 経営者が知っておきたい見直し議論の現在地

2026年8月20日付の日本経済新聞一面で、非上場株式の評価方法の見直しについて報じられました。
事業承継を考える中小企業の経営者にとって、自社株の評価は相続や贈与に直結する重要なテーマです。


現在、国税庁では「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が開催されており、4月から議論が続いています。8月20日に開催された第5回会議では、それまでの議論を踏まえて、国税庁から評価制度の見直しについて、かなり具体的な方向性が示されました。まだ制度改正が決まったわけではありません。しかし、今後の事業承継を考える経営者にとっては、注目しておく価値のある議論だと思います。


なぜ非上場株式の評価方法を見直すのか


現在の非上場株式の評価では、会社の規模などに応じて、類似業種比準方式や純資産価額方式などを使い分けています。一方、有識者会議では、評価方式の違いによって会社規模ごとの評価額に大きな差が生じていることや、会社規模、利益、株主構成などを操作して評価額を圧縮する手法が利用されていることなどが問題として議論されてきました。


第1回から第4回までの会議では、こうした問題を踏まえて、
・会社規模によって評価方式を分ける現在の仕組みは妥当なのか
・上場企業との比較をベースとする類似業種比準方式には十分な合理性があるのか
・継続することを前提とした会社を、清算を前提とするような時価純資産で評価することは適切なのか
・企業の収益力をより反映した評価方法を取り入れられないか
といった論点が検討されてきました。

そして第5回では、こうした議論を踏まえ、「会社規模による区分を廃止し、より広い企業に共通する評価方式を適用できないか」「企業の収益力を重視するインカムアプローチを評価の主軸にできないか」という方向性が示されています。


候補として示されている「残余利益方式」


その具体的な評価方法の一つとして検討されているのが、「残余利益方式」です。
第5回資料では、継続企業であることを前提として、「簿価純資産 + 数年分の超過収益(残余利益)」を基本に株式を評価するイメージが示されています。会社が現在持っている純資産に加えて、その会社が通常期待される利益をどの程度上回って収益を生み出しているかを評価に反映させる考え方です。


この方式が注目されている理由の一つは、会社の「収益力」を評価できることです。
例えばDCF法では、将来のフリー・キャッシュ・フローを予測する必要があります。成長のために大規模な設備投資を行っている企業では、一時的にキャッシュ・フローがマイナスになることもあり、中小企業が税務申告のために将来予測を行うことにも実務上の難しさがあります。
これに対して残余利益方式であれば、帳簿上の純資産や過去の利益など、企業が既に持っている会計情報を利用しながら、企業の収益力を評価に取り込める可能性があります。


もっとも、現時点で計算方法が確定しているわけではありません。何年間の利益を使うのか、どのような収益率を基準とするのか、残余利益をどのように現在価値へ換算するのかなど、重要な部分は今後の検討事項です。したがって、現段階で「新しい方式になったら自社株はいくらになる」と正確に計算することはできません。


経営者として注目したい「正常利益」という考え方

もう一つ、私が経営の観点から注目しているのが「正常利益」という考え方です。
今回の会議では、評価方式そのものの見直しと並行して、株式評価額を意図的に圧縮する手法への対応も検討されています。第5回資料では、オペレーティング・リース、多額の役員報酬、一時的な役員退職金などによって利益を一時的に減少させるケースについて、企業価値評価の実務を参考に、非経常的な損益を修正したうえで「企業の正常利益」によって評価する方向性が示されています。


ここは経営者にとって重要なポイントです。仮に今回示されている方向で制度が見直されれば、「承継の直前に利益を落とせばよい」といった単年度の発想ではなく、その会社が継続的にどの程度の利益を生み出せるのかという数年間の収益構造が、これまで以上に重要になる可能性があります。


設備投資や賃上げとの関係にも注目

この議論は、税務だけの話ではありません。現在、中小企業政策では、省力化や生産性向上のための設備投資と、その成果を賃上げにつなげることが重視されています。補助金などでも、設備投資と賃上げを組み合わせた制度設計が増えています。

設備投資をすれば減価償却費が発生します。しかし、その設備によって生産性が向上したり、生産能力が増えたりすれば、その後の利益は増えるかもしれません。
賃上げをすれば人件費は増加します。一方、人材の定着、生産性向上、採用コストの低下、価格転嫁などにつながれば、中長期的な収益力が改善することもあります。
したがって重要なのは、「いくら設備投資したか」「何%賃上げしたか」だけではなく、その結果として数年間の利益構造がどう変わるのかという視点です。
今後、企業の継続的な収益力をより重視する株式評価制度へ移行するのであれば、設備投資、賃上げ、生産性向上、事業承継といった経営課題を、それぞれ別々に考えるのではなく、一つの中期的な経営計画として考える必要性はさらに高まるでしょう。


今すぐ「株価対策」をする段階ではない

今回の見直しは、まだ有識者会議で検討されている段階です。そのため、現時点で新しい評価方法を前提として設備投資や賃上げ、役員報酬などの経営判断を変えるのは早計です。
一方で、事業承継を数年以内に考えている企業であれば、
・過去数年間の利益はどのように推移しているか
・一時的な損益を除いた本来の収益力はどの程度か
・今後どのような設備投資が必要か
・賃上げと生産性向上をどのように両立するか
・社長交代や株式承継をいつ頃予定しているか
といったことを整理しておく意味はあります。

これらは税制改正のためだけに考えるものではありません。もともと中期的な経営計画や事業承継を考えるうえで重要なテーマです。今回の非上場株式評価の見直し議論によって、こうした「会社の数年間の収益構造」と自社株評価との関係が、これまで以上に近づいてくる可能性があります。制度改正の内容が具体化すれば、設備投資や賃上げ、事業承継との関係についても、改めて考えていきたいと思います。


※本稿は2026年8月時点で公表されている国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の資料をもとに、経営面から考察したものです。評価制度の見直しは検討段階であり、今後内容が変更される可能性があります。具体的な株式評価、相続税・贈与税その他の税務判断については、税理士等の専門家にご相談ください。
参考資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第1回~第5回配付資料・議事要旨